地球環境の監視、実態把握のための気象観測データ収集は、世界中を航行する船舶の気象海象観測データに依存しています。WMO(世界気象機関)が進める篤志観測船計画の一環で協力を呼びかけ、それに協力する船舶を“篤志観測船” (VOS:Voluntary Observing Ship、以下「VOS」)と呼んでいます。 この篤志観測船計画には、2013年で3,500隻(気象庁坂間智子“港湾気象業務について”より)の船舶が参加しています。 地球の表面積の約7割を占める広大な洋上で、大半の船舶は特定の航路、海域を航行しています(図1参照)。
VOSは、気象観測情報として以下の情報を3時間ごとに通報することを要請されています。
実際はすべてのVOSがこのような要請に従ってきちんと通報できているわけではなく、図1のように船舶の航路は特定の海域に大きく偏っており、しかも定点連続観測ではなく、観測の密度、質ともに陸上の観測設備には及びません。しかしながら広大な洋上を航行する唯一その1隻の船舶がVOSとして気象観測及び通報を行うことで、地球規模の大気の流れを正確に捉えることができます。
150年以上にわたって行われてきた海上気象観測とその報告によって蓄積されてきたデータは、気象変動などの監視や予測に不可欠な基礎データとなっています。
地球環境及び日本を含め世界各地の地域気象の監視に活用されています。
なお、この研修は、篤志観測船の船員だけでなく、船舶の運航管理者も研修の対象としています。特に、天気、風、波の予想につながる知識を習得することができます。また、この研修を受講すれば、波の高さを目視観測できるようになります。詳しくはメールでお問合せください。
VOSで観測した観測データは全球通信システム(以後、GTSと呼ぶ)を通して全世界に配信され、各国の気象機関が行っている数値予報の初期値として活用されています。当然、この観測データは日本国内の天気予報の精度向上に寄与し、日本国内に災害をもたらす擾乱を事前に捕らえ、これを予測することで減災に役立ちます。 また、この気象観測・通報は外洋を航行する船舶だけにできる社会貢献です。そして、なによりも、VOSで気象観測し、通報することで、船舶の安全を確保し、結果的に、経済的な運航情報としてフィードバックされます。
衛星リモートセンシング技術が進化をとげつつある一方、地上観測技術の重要性も見直されています。 長い気象観測の歴史においては、視程、天気、雲は観測機器ではなく人の目に頼った有人観測(目視観測)で行われてきました。 これまでにない高度な気象レーダやGNSSによる水蒸気観測など、さまざまな新しいセンシング技術に、最新のAIを取り入れ、観測の自動化が進んできました。その結果、2019年2月から関東地方の一部地方気象台では観測員による目視観測が廃止され、視程計、温湿度計、感雨計、衛星画像情報、レーダ情報等により視程、天気、雲が自動観測されるようになりました。 しかし、気象観測の自動化が進む中、VOSの船員には、目視観測を行う能力が求められています。その理由は次のとおりです。
これらは、自動観測を否定するものではなく、自動観測と有人目視観測を両輪とした気象観測技術だと言えます。
VOSにおいて、正確で品質の高い気象観測、及び、迅速な通報をしていただくため、VOSの船員のスキル向上をめざし「気象観測能力向上研修」を案内申し上げます。 現在においても、また、将来の完全自動化観測システムにおいても、活躍できる技術を船員に教育することを目的としております。
本研修では気象観測に協力してくださるVOSの船員に、視程、天気や雲の観測技術(目視観測技術)、及び、通報に関する不可欠な知識を習得していただけます。 気象観測の未経験者を対象とした、「基本コース」と、気象観測の経験者を対象とした、「フォローアップコース」があります。 これらの研修はご要望に応じて、内容を変更することができますので、詳細はお問合せください。